見えてくる実態
学歴は収入にどれだけ影響するのか?
学歴は民間就職においては依然として大きな影響を及ぼすが、実のところ仕事の成果とも言える「収入」に対してはどれだけの相関が見られるのだろうか?今どき学歴なんてお金に直結するのだろうか?統計をもとに検証してみた。
学歴別の生涯収入
単位:百万円 | ||||
企業規模 | ||||
1,000人以上 | 100人~999人 | 10~99人 | ||
学歴 | 大卒・大学院卒 | 378.9 | 307.9 | 252.0 |
高専・短大卒 | 309.2 | 256.6 | 230.6 | |
高卒 | 309.4 | 246.5 | 215.5 | |
中卒 | 296.7 | 234.8 | 218.9 |
上の表は、労働政策研究・研修機構(JILPT)による「ユースフル労働統計―労働統計加工指標集―2020」をもとに作成したもの。ここでの金額は、退職金や61歳以降の収入も含んでいる。(データが男性のものしかなかったので、女性版はご勘弁を)
ここから先は便宜上、次のように言い替える。
【学歴】
「大卒・大学院卒」⇒「大卒」
「高専・短大卒」「高卒」「中卒」⇒「大卒以外」
【企業規模】
「1,000人以上」⇒「大企業」
「100~999人」⇒「中企業」
「10~99人」⇒「小企業」
一見、「大卒」>「大卒以外」だが・・・
「大企業」「中企業」においては、「大卒」が「大卒以外」を大きく引き離し、5,000万円以上の差があることが分かる。「小企業」でも2,000万円以上の差を付けている。
他のコラムでも記載したが、手取りベースだと地方での家一軒分に相当する差である。また、「大卒以外」の、「短大・高専卒」「高卒」「中卒」ではあまり大きな差が見られない。つまり、日本では「大卒」と「大卒以外」で、厚い厚い学歴の壁が現代においても存在している。
しかしこの表をよく見れば、あることに気が付くだろう。「学歴」のみならず「企業規模」もあわせて二面的に分析すると、また違った世界が見えてくる。それは、
「大卒」・「中企業」=「大卒以外」・「大企業」
また、
「大卒」・「小企業」=「大卒以外」・「中企業」
となっており、 一概に「大卒」>「大卒以外」ではない。さらに言えば、企業規模によっては逆転することもあり得るというデータになっている。
その分析を元に作成したのが下の表であり、「学歴」・「企業規模」の組み合わせで、生涯年収が似通っているものを同カテゴリにまとめて、第1階層~第4階層に分類した。
階層 | 学歴 | 企業規模 | 生涯収入 |
第1階層 | 大卒 | 大企業 | 約3億8,000万円 |
第2階層 | 大卒 | 中企業 | 約3億円 |
大卒以外 | 大企業 | ||
第3階層 | 大卒 | 小企業 | 約2億5,000万円 |
大卒以外 | 中企業 | ||
第4階層 | 大卒以外 | 小企業 | 約2億円強 |
大卒中小 vs 高卒等大手
「大卒」以外で大手企業に入るメリット
「大卒」で「中企業」に行くくらいなら、「高卒」で「大企業」に行っておいた方がいいのか、というような議論が度々起こるのも頷ける。(そもそも「企業による」と言えばそれまでだが)。
生涯収入だけ見ると両者は互角なのだが、給料以外にも見えない要素もある。その点では「大企業」は充実しており、典型的な例としては福利厚生が挙げられる。また、一般的に企業規模が大きければ大きい程、倒産リスクは低くなり、「中企業」「小企業」に比べると比較的安定した人生を送れるというメリットがある。
これらを金額に換算すれば、生涯で数千万円に値する差が生まれる(家賃補助などの制度をフルに活用すれば、それだけで1000万円を越える価値が出てくる)。こうして見ると、「大卒以外」の学歴で、「大企業」に入った方がトータルで豊かな人生を送れるように見える。
だが仮に、「大卒」・「中企業」か「大卒以外」・「大企業」、また、「大卒」・「小企業」か「大卒以外」・「中企業」どちらの道を選ぶかと問われたならば、個人的にはいずれの選択においても、「大卒」で「中企業」「小企業」に行く道を選ぶだろう。
それでも大卒にすべき理由
その理由は、第1階層へとのし上がるリベンジのチャンスが残されているからである。
”幹部候補”としての差
「大卒以外」の者が「大企業」へ行けば、大卒総合職よりは遥かに水準が落ちるものの、生きていく上では問題のない待遇を得ることは出来る。しかし、出世の機会はなかなか訪れない。中には、とても仕事が出来る人だと中間管理職へと登用されるケースもなくはないが、役員まで登りつめるのはまず不可能だろう(大卒でさえムリなレベル)。
一方で、「大卒」の場合は管理職は勿論、「中企業」「小企業」であれば役員に選ばれる可能性が見え、それが叶えば一気に第1階層へと躍進する。(とはいえ、”小企業”では厳しいところもあるかもしれないが・・・そもそも定年までに存続してくれるかという問題があるのは確か)それどころか、役員就任期間が長ければ、大手企業の大卒社員が稼ぐ生涯年収を遥か抜いていくことも考えられる。
転職における選択肢の差
また、「大卒」と「大卒以外」では、転職時に就ける仕事の幅が段違いである。「大卒」であれば、大手企業へ転職してめでたく第1階層へと上れる機会があるが、「大卒以外」の学歴だと、大卒向けの仕事や待遇の求人にハマることは、まずない。
つまり「大卒以外」の場合は、サラリーマンとして生き続ける限りは、第2階層が上限になってしまうと考えるべきだが、「大卒」ならば新卒就職時に失敗したとしても、その壁を破れる可能性がある。これが日本で今尚続く、残酷な「学歴の壁」である。
「大卒以外」の学歴である場合、その壁を破る方法としては、脱サラして一発当てるしかないだろう。そうなれば第1階層~第4階層などどんぐりの背比べとして、つき抜けていくはずだ。
第1階層もピンキリ
2つの壁
第1階層は全4階層の中ではダントツであり、「大卒」・「大企業」勤めが、サラリーマンの中では現状で勝ち組ということを表している。
「大卒」と「大卒以外」の間にまず壁がある。そして「大卒」の中でも、大手企業を狙える一流大学(S級大学とA級大学だけ・・・と言いたいが、学歴フィルター通過率が高いB級大学も入れてもいいかも)と、それ以外の大学との間に壁があることが分かる。
果てしない格差社会
だが、この第1階層として注意が必要なのは、この層の中でもピンからキリまであるということだ。デカければなんでもいいという訳ではなく、上は平均年収2,000万円クラスの超一流企業、下は中小企業とさほど変わらないような給与体系の企業もある。
さらには「大卒」の中でも「総合職」「エリア限定総合職」「一般職(最近は減っているが)」等さまざまであり、「大卒」の待遇として、そのイメージに沿っているのはあくまで「総合職」のみである。それ以外では大きく給与水準が落ちるので、第1階層の中は、とてつもない格差が付いていることが予想される。
大企業 ≠ 大手企業
だいたい、この統計での「大企業」の基準は従業員1000人以上だが、それで「大手企業」のイメージにかなうかと言われると、「?」な印象はある。トップページでも述べているが、各業界において大きなシェアを誇る企業であれば、少なくとも、従業員数5,000人以上、売上5,000億円(出来れば1兆円)以上はありそうなものである。
第1階層のなかで本当に生涯収入4億近くもらっているのは、あくまで「平均」であり、それは同階層の下限である従業員1,000人程度の規模では、あまり達成できる確率は高くないと言えるだろう(規模が全てとも限らないけど)。
総括
以上のとおり、サラリーマンの全体的な傾向として見れば、学歴と収入は大いに関係すると言える(まずは4大に行けているかどうか。次に、ランクの高い大学に行けてるかどうか)。
その差も激しく、第1階層と第4階層では1億5,000万円以上の差が見られ、学歴の違いが人生を左右するということも、さして大袈裟な話ではない。
ただし、企業個別に見れば給与水準も待遇もまちまちであり、「大卒」と「大卒以外」の差がそれ程ない場合もあれば、「大卒」と「大卒以外」でピーク時の年収差が500万円前後に及ぶところもある。大手企業でも「大卒」以外はせいぜいピーク時でも年収500万円程度しか稼げないところもある。就職前に口コミサイト等での企業リサーチはしっかりやっておくことをオススメする。
特に大卒の場合は、「就職四季報」に総合職の平均年収や、25歳時・30歳時・35歳時の基本給推移が見れたりするので、色んな企業で比較してみると面白いかも。