TOEIC 対策
3本立て
別コラムでは、TOEICがどのような試験か、就活の資格として有効なスコアはどれくらいになるのかを解説した。
当コラムからは「総論」「リスニング」「リーディング」の3回に分けて、TOEICの試験対策について経験上有効と思うものをお伝えしたい。
これから学習を始める人向け
3回とも主に初学者向けであり、TOEICの中~上級者にとっては今更な内容も多いかもしれない。
特に大学受験を終えたばかりの大学生や、これから大学受験を迎える受験生、また、TOEICをうまいことスルーしながら社会人になった方(特に海外進出してきる企業)には、今後の人生において長い付き合いになる可能性のあるTOEICについて、その入口を知ってもらうための内容となる。
この回では、リスニング・リーディング共通となる、試験対策の基本中の基本について記載する。心構え等の話が多くなるので、抽象的な事項が多くなる。
① 語彙力がすべての源
単語学習は最重要の基礎トレ
覚えている単語数が多いほどスコアは上がる。英語は暗記科目であり、英単語の意味が分からなければ知識のピースそのものがないので、ほとんど何も出来ない状態になってしまう。
知らない単語が出れば文脈から推測することになるが、TOEICのようなスピード勝負の試験ではなかなかそのような余裕はない(大学入試においては敢えて推測させるような問題も見受けられるが)。逆に、単語の意味さえ分かれば、少々複雑な文法や文構造であったとしても文意の糸口は掴める。
TOEICのバイブル
オススメの単語帳は、もうTOEIC学習の上では誰もが知っていると言っても過言ではない「TOEIC L & R TEST 出る単特急 金のフレーズ (TOEIC TEST 特急シリーズ)」。
ここに出てくる1000語を覚えれば、スコア800レベルには十分である(大学受験の頻出単語はある程度覚えていることが前提にはなるが)。野球でいう素振りのように、毎日継続してボキャブラリーの向上に努めよう。
② 短期集中ならリスニングから
伸びしろが多い
TOEICはリスニングの方がスコアが伸びやすい。大学受験ではリーディングの比率の方が高いため、日本人全般リスニングの基礎がなっていない。TOEICのリスニングでは、ネイティブに近いスピードで会話が流れ、さらには色んな国のクセが混在するせいで、初学者にはなかなかの取っ付き辛さがある。
しかし、英語の会話・アナウンスに慣れてキャッチできるワード数が増え、喋り方のクセに対応してくれば格段にスコアが上がり始める。
就活まで時間がない学生や、忙しいサラリーマンは短期集中型の勉強となるため、リスニングから勉強し一気にスコアを上げていくのが効率的。
じっくりと最高到達点を上げたいなら・・・
逆に、時間に余裕がある場合はリーディングから慣らしていく方がいい。その理由は、リーディングの方が語彙や文法といった、英語における一番の基礎を鍛えることが出来るためである。
スコアの伸びは緩やかかもしれないが、我慢強くコツコツ取り組めば、より高いスコアへと飛躍出来るはずだ。
③ 捨てる勇気:切替力
当コラムで一番言いたいこと
TOEICで最も大事なのはコレです(断言)。この試験はとにかく問題数が多く、分からない問題にいつまでも時間をかけていると瞬く間に持ち時間が底を尽きてしまう。
固執は厳禁
リスニングは当然、受験者の意思など関係なく次から次へと容赦なく残酷に音声が流れていく。リーディングも後の方になるほど文章量も多くなり、時間が足りなければ平常心を持って読めるような精神状態は保てない。
一度時間を多く使ってしまうと後の問題にもシワ寄せが来るため、どこかで割り切らなければ時間が足りないままその先の問題に対処することになり、スコアが落ちる要因になりかねない。
分からなければ、次!
したがって、難問にぶち当たって解答が困難だと分かったときは、スパっと次の問題へと移り、時間ロスを最小限に抑えるという「切替力」が運命を分ける。
難しい問題にもじっくりと考えて立ち向かうメンタリティを持つ難関国立大学の在籍者・出身者にとっては、意外とこういうところが壁になってくるかもしれない。しかし、TOEICハイスコアを目指すには、切替力こそが必須スキルであることを是非とも頭に入れておいてほしい。
④ 英文の出だしが肝心
文章の輪郭を掴もう
何事も最初が肝心である。リスニングの会話・アナウンス、リーディングの長文においても、文章の序盤が掴めなければ、文章のテーマがよく分からないまま先へ進むことになり、読み進めても「よく分からない」まま終わってしまう(後ろの方にヒントがあることもないことはないけど)。
冒頭3語をキャッチせよ
また、リスニングにおいては特に最初の3語を死ぬ気でキャッチして、一文の全体像をつかむこと。英語は日本語と違い、一文の序盤に重要な情報が集まることが多い(主語・疑問詞・時節など)。
さらに、イヤらしい問題としては、”As a mayor・・・”から始まるアナウンスがあり、小問の一つに「アナウンスの話し手はどんな人物ですか?」という問いがあった。この小問の場合、最初の3語を聞き逃せば、その時点でアウトになってしまう。
最初はじっくり、徐々にギアを上昇
リーディングの長文では、序盤に少し時間をかけて読み「これは何の文章なのか?」「何が主題なのか?」「何について言おうとしているのか?」という文章全体のイメージを掴もう。それが見えれば、後の文章はスラスラと読みやすくなってくる。
⑤ 一瞬たりとも気を抜けない
とにかく時間がないぞ
再三言っているが、TOEICは2時間という、時間が少々長めの試験だが、問題数が200問もあり、実際には時間的余裕は全く感じられない。
何せ、一問にかけられる時間は単純計算で30秒ちょっとしかない。リスニングはテンポよく次々と進むが100問を45分かけて進める。
僅かなリードは「ない」のと同じ
やっとリスニングが終わったと思ったら、次はリーディング100問が待ち受ける。詳しくはリーディング対策のコラムで記載するが、リーディングは時間配分が非常に重要となる。あらかじめ作戦を練った時間配分に沿い、途中まで順調に進んでいると・・・
「ヨッシャヨッシャ、いい調子!少しくらいペース緩めて、この辺からじっくり考えて進めても大丈夫だろう(ほっと一息)」
などと考えてしまうと、一巻の終わり。少しでも気を緩めれば、あっという間に時間に追いつかれてしまう。
ハイスコアを目指すためには、試験時間の2時間は、一瞬たりとも気の休まる瞬間はなく常に極限状態でいなければならないという覚悟で挑もう。
ちなみに、スコア700までで構わないなら、ここまでシビアになる必要はない。詳しくはリーディング対策のコラムにて。
⑥ 大学入試とは違う
東大生ですら平均700弱
大学受験の時に英語が得意だったからと言ってTOEICを舐めてはいけない。大学入学共通テストの英語もスピード感を要求され大変な試験だが、TOEICはもっと大変である。
共通テストの英語でほぼ満点をとれる実力があっても、特に帰国子女等でない限りは、何も対策をしなければTOEICスコアはせいぜい500を越える程度が関の山だろう。
TOEIC専用の対策が必要
TOEICは頻出単語にビジネス寄りのクセがあり、リスニングも大学受験とはレベルが違う。そして、それなりの学歴ランクの大学に通う大学生であれば、英文自体には慣れているのものの、TOEICにおいて欠かせない時間配分の作戦とそれに沿ったトレーニングを積まなければ、リーディングにも太刀打ちはできない。
大学受験を終えて自信満々で「700くらいは軽く越えてやるぜ」と公式問題集に臨んだものの、テスト1回分を解き終わる前に挫折してしまう者もいるくらい。
⑦ 着手は早めに:1回生の時から
せっかく鍛えてきた英語力を活かす
大学入試が終わると一息つきたい気持ちになるのは当たり前だが、その時期は英語力がギンギンに高まっている頃なので、この機を逃す手はない(まだまだ、対策をしないとTOEICハイスコアは取得出来ない状態だが、英語力の土台としては固まっているという話)。遊んでいると、徐々に単語・熟語を忘れていき英語力は衰えてしまうので、そうならないうちにTOEICの勉強に着手し、継続的に学習しよう。
「3回生から開始」はNG
「TOEICは2年経てばスコアが無効になるから1回生から勉強を始める奴はバカだ。」とかほざくバカがよくいるが、次の2点において間違いを犯している。
まず1点目として、よく勘違いされているのだが、TOEICは2年でスコアが無効になることはなく、公式には一度取得したスコアはずっと残る。よりタイムリーな英語力を把握するため、最新2~3年のスコアを求める企業があるという話である。
つまり、履歴書やエントリーシートには1回生時点でのスコアは書いてもいいのだ。ただし、同じスコアの場合は、より新しい日程で取得した人が優遇される可能性はある。
2点目としては、就活直前の3回生あたりでTOEICを初受験すると、衰えきった英語力で臨むことになり(英検やTOEFLなどを受けているなら少し話は別だが)、力を取り戻そうにも時間がなく、手遅れとまでは言わないものの不利な状態になってしまう。
TOEIC対策の着手はなるべく早く、かつ継続的に取り組む必要がある。大学受験終了直後が英語力のピークだったなんて人生にはしたくないところ。
⑧ 公式問題集:最初はやめとけ
公式問題集は必須アイテムだが・・・
これにも色んな考え方がある。確かに、最初に公式問題集を使って一通り試験問題を解き、TOEICの感触を掴むと同時に、目標と現状のギャップを知ることは大いに意義があることだろう。しかし個人的には、最初から公式問題集に手をつけるのはあまりオススメ出来ない。
いきなりラスボスに挑むのと同じ
何故なら、はじめは歯が立たなさ過ぎて、いきなり心が折れてしまう危険性があるからである。TOEICを舐めてはならないのは勿論だが、適切に対策をすれば必ずスコアは伸びる試験なので、それをせずに挫折してしまうのは勿体なさ過ぎる。
力試しは中盤から
したがって一番最初の時点では、通しですべて解いてみるのではなく、パートごとに分けて勉強してみるとよい。そして公式問題集は、後の力試しの時までは手をつけないでおこう。
問題演習としては公式問題集ほどの良問はないだろうが、他にもいい問題集は沢山ある。市販の問題集もいいが、アルクの通信教育もかなり鍛えられるので個人的にはオススメ。
全7パートを一通りやり終えて、要領が分かってきた時点で、はじめて公式問題集で腕試しをする権利を得られる。
英語のペーパーテストに自信がある者ほど、本番同様の形式にチャレンジするのは、ちょっと待ってみた方がいいと考える。
⑨ 会場ガチャ
リスニングで有利不利が出る
これはどうしようもないのだが、会場によっても運命を左右することがある。机や椅子、空調の状態などは大学受験と同様だが、リスニングの環境がまさにガチャ状態。音響が会場によってクオリティが違う上、席によってスピーカーに近い・遠いがあり、それによりリスニングの有利・不利が変わってくる。
酷い場合だと、会場の一番前にある試験監督席の上にラジカセをドンと置いて音声を流すというケースまであった(ちなみに職場で受けたIPテスト。公開テストだとそんなエグいことはしないとは思うがのだが・・・)。
良い環境を自ら勝ち取る
もし、音が聞き取りづらいとか、会場の温度が高い低いなどあれば、恥ずかしいかもしれないけど、遠慮なく声を出すこと。せっかくの頑張りが、会場ガチャで遺憾なく発揮出来ないのは悲しすぎる。
⑩ 問題はだんだん難化
いたちごっこ
多くの資格試験に言えることだが、年々問題が難しくなってきている。リスニングは特に音声のスピードが早くなってきており、初学者にはキツいはず。
21年に入ってから、TOEIC毎回ほぼ満点を取っているYouTuberの方々でさえも、度肝を抜かれる程の難易度となった回が増えてきた印象。その分、正答率が低くともスコアが出やすいのかもしれないが、TOEICに慣れない人にはキツいだろう。
公式問題集の注意点
公式問題集は出来るだけ新しいもの(番号が大きいもの。21年7月時点では「7」)から使っていこう。「1」「2」でも構わないが、現在の試験よりは若干難度が緩いので注意。
また、TOEICは2017年から問題の構成など、試験形式が改正されたので、新形式になってからのものを使いましょう(旧形式のはそもそも書店にはもう売っていないだろうが)。
⑪ 抽象的な選択肢は、正解になりやすい
絶対ではないが、傾向がある
最後は、やや受験テクニック寄りのアドバイス。例えば「男性はこの後、どのような行動をとると考えられるでしょう?」という問題があり、解答の選択肢が以下の通り記載されているとする。
A. 上司に電話する
B. 上司にメールを送る
C. 上司にチャットする
D. 上司に連絡をとる
上記の場合、最も抽象的な表現をしているDが正解にやりやすい。何故なら、抽象的でフワっとした表現の方が間違ったことを書いている可能性が少なくなるからである。
「連絡をとる」というのはイマイチ踏み込んでおらず曖昧な言い方にはなるが、それは他の選択肢「電話」「メール」「チャット」すべてを含む上、それ以外の手段、例えば「社内レターを送る」「イントラの伝言板に連絡事項を書く」「同僚に頼んで伝言を伝えてもらう」といった、選択肢にないあらゆる手段もカバー出来ることになる。
消去法のコツ
「そんな曖昧な解答では答えになっていない」という気持ちも分かるが、文章や音声と矛盾することを解答してしまうのは一番やってはならないこと。具体的に踏み込んで書いている選択肢はダミーとして作りやすいので罠であることが多いのである。
真面目で素直な人ほど引っ掛かり安いのだが、たくさんの意味を内包し得る選択肢こそが正解の可能性が高いことを意識して演習し、それが身体に染み付く程に慣れてくれば、選択肢で惑わすトラップもくぐり抜けることが出来るだろう。
これはリスニング・リーディング共通(part3,4,7)で使える基本テクニックなので、早めにマスターしておいてほしい。
おわりに
上記の注意事項は、対策というよりは、それ以前の心構えのようなものであり、TOEICの世界ではもはや常識となっている事項もある。続く2回のコラムでは、リスニング・リーディングの対策をより具体的に述べていければと思う。