浪人の意味

コラム

全国スケールの敗者復活戦

他のページでも述べたように、一旦レールから外れると巻き返しが難しいイメージのある我が国だが、意外と敗者復活の道が多く存在する。その中でも最もポピュラー(?)な敗者復活戦が大学受験の浪人である。

近年は浪人不要論の方が多く聞かれるような印象を持っているが、当サイトは必ずしもそうとは限らないと考えている。ただし、浪人には確かにデメリットもあり、生半可な覚悟で望むべきではない。せっかくの人生逆転のチャンスをどうモノにしていけば良いだろうか。

浪人して失うもの

まず、現役での大学受験に失敗しドン底に叩き落とされた若者にはさらに辛い現実となるが、「もはや失うものは何もない!あとは這い上がるだけだ!」と励ましてあげたいところであるものの、それは無責任極まりない言葉。浪人をすると、以下の3つを失うことになる。

① 金

予備校に通うにも当然学費がかかる。さらに、地方の学生が都会の大手予備校で勉強する場合は寮費も必要となる(こっちの方が遥かに莫大な金額となる)。

しかし本番はここからであり、1年浪人するということは、1年就職が遅くなり企業での就業可能期間が1年短くなるということである。それは何を意味するかと言うと、役職定年直前となる給料ピークのキャリアハイ1年間を失うということである。役職や給料にもよるが、それによって失う金額は中小企業でもそこそこ出世していれば500万円を越えることも珍しくない。

親にかける負担に目が行きがちだが、それ以上に自分自身が遥かに大きな負担を背負うリスクがある。

② 青春

1年間だけではあるが、ティーンエイジャーの終盤という、勉強以外にも多くのことを経験し、人間的に成長しやすい時期を、1年間ひたすら受験勉強に捧げるのは大きな代償となる。

若い日々というのは有限であり、日本では若ければ若いほど新しいことも始められるし、失敗しても起き上がりやすくなる。そしてコケても起き上がった経験は人生の大きな糧となる。何事も着手するのは、出来るだけ早いうち・若いうちがいい

③ 身分

まだ社会人になっていない青年に身分もクソもあるかと言われても仕方がないのだが、実は浪人するまでは「高校生」という身分に守られていた面がある。一見当たり前のことなのだが、「高校生」という身分こそが、学校でちゃんと勉強しているというイメージを名刺代わりとして周囲の人間に与えてくれ、普通にまっとうに学生生活を営んでいる若者として見てくれる。

しかし、「浪人生」という身分は残念ながら社会においては、高校を卒業しても進路の定まっていない宙ぶらりんな存在でしか見られない。「頑張っているんだね」と言ってくれる人もいるが、哀れな目、もしくは大丈夫かな・・・という不安要素を身近な人々は抱いてしまう、というのが現実である。

浪人して得られるもの

だが、もちろん失うものばかりではない。得られるものがあるから浪人という選択肢を選ぶはずである。

① 勉強時間

これは当然であるが、浪人することで1年間の猶予が生まれる・・・と言いたいところだが、実は4月から再スタートを切るとして、1月の大学入学共通テストまで全然1年間もない。既に残り10か月を切っている状態であり、思っているほどの時間的余裕はない。

とはいえ、1日8時間勉強するとして、約2,000時間を得られることになる。B級大学である「GMARCH」に合格するための勉強時間として大体2,000時間必要であることが通説となっている。

つまり極論にはなるが、浪人が決定した時点で、その全員がB級大学に合格できる可能性があるということである(下地ゼロでは困るが・・・)。浪人で失うものは決して少なくない。だが、人生の一部を捧げるに値するほど強力なブーストを得ることができる。

② 友人(戦友)

幼稚園/保育園・小学校・中学校・高校・大学・・・とそれぞれ友人がいると思うが(いない人もいるけど)、浪人生の場合はそれに予備校の友人が追加される。

単にそれだけではなく、浪人時代という苦難を共にした友人とは深い絆が生まれやすく、長い付き合いに出来る可能性が高い。ちなみに、友人とは少し違うが、新卒で就職した際の同期とは、共に新入社員研修を乗り越えるため、その後の会社人生において掛け替えのない存在となる。

浪人生に求められる覚悟

現役での受験に失敗した中には「あー落ちちゃった。じゃ予備校行こ。」と意外に淡々と浪人への道へと進んでいく者もいる(4月の再スタートに向けて時間がないので、それも致し方ないかもしれないが)。だが、失うものもあるからには、浪人をすると決まったら主に以下の3点は覚悟して臨むべきと考える。

① 精神的な辛さ

浪人生として戦う1年弱、きつい精神的プレッシャーとも戦うことになる。浪人したところで志望校に合格出来る保障はどこにもない。

さらには、現役で合格して晴れて大学生となっていった高校時代の同級生に会うことがあれば、どんよりとした自分達に比べて、垢抜けてキラキラとした大学生達を見て、並々ならぬ嫉妬心に苛まれることもある。それを糧に出来る者もいない訳ではないが・・・夏休みの時期等にはあまり、旧友たちには会わないことをオススメする。

② B級以上、地元は国公立

やるからには、B級大学、出来ればA級大学を目指すべき。理由は、B級以上であれば大手企業における学歴フィルターにかかる可能性はほぼなくなり「挑戦権」を得られるからである。同じ大卒でも大手企業と中小企業では得られる生涯収入が大きく違っており(従業員1000人以上の企業と、100~999人の中堅企業では約5000万円以上の開きがある)、浪人で犠牲になるものを考えれば、少しでも大手企業に入れる可能性の拡がるランクを狙うべきである。

したがって、大手企業への就活を不利なく進められるA級大学以上が理想だが、最低ラインをB級大学に定めて頑張りたいところ。逆に言えば、特定の大学に対する余程のこだわりがない限りは、B級大学以上を目指すモチベーションを持てそうにないなら、浪人など止めた方がいい。

※ちなみに、地方の浪人生には家庭の事情等で、どうしても出身県内や周辺県で志望校を選ばなければならない場合もあるだろう。地方にはB級以上の私立大学はないので、地元で進学する場合は国公立大学を目指そう。

あと、公務員試験については学歴ランクは基本的に無関係である(国家総合職試験をパスしたキャリア官僚は出世で関わることはある)。公務員を目指すなら浪人はハッキリ言って無駄な行為にはなるが、大学在学中に民間志向に変わる可能性もあるので(入学~就活の時期まで3年近くはあるのだから)、ランクの高い大学に入っておくに越したことはない。

③ 恋愛はご法度

受験で最も要らないのがコレだ。賛否両論あるのだが、少なくとも周りでは、浪人時代に色恋沙汰にハマった者は全員が悲劇的な結末を迎えた。志望校のことを何よりも愛した者こそが、最後に勝つ。

夏が勝負

現役での受験に失敗して浪人することが確定し、新しいスタートを切るまであっという間である。それ故に最初は早いとこ気持ちの整理を付け、勉強への集中力を高めることが肝要である。予備校では各教科(最低でも国数英は)で何でも質問できる先生を見つけ、現役時代には考えもしなかった、基礎の本質をトコトン教えてもらおう。(英文法などメチャクチャ奥が深い)そのように、浪人生活の型を春の早いうちに固めておきたい。

個人的に、浪人生にとって最も大事だと考える時期はである。この時期になると浪人生活にも慣れてくる上、まだまだ現役生との差が大きくついているため、気が緩みやすい。しかし夏休みになると、現役生は部活を引退して本格的に受験へとスイッチを切り替えてくるため、ここから急速に差が縮んでくる。秋には大学入学共通テスト対策の本格化や、大学個別の模試も控えているので、その時に焦らないよう、夏が終わるまでに基礎の再復習を完遂させておきたい。

大学入学共通テストが終われば、現役生はそこで最後の一伸びをするが、浪人生の場合は後がないため国公立大学が第一志望でも滑り止めで複数の私立大学を受験するケースが多くなるため、二次試験対策に専念し辛い。その時にも備え、夏までに着実に力を付けておこう。

予備校には行くべきか

① ペースメーカーになる

よく言われている「あるある」だが、これは確かに大きなメリットだ。宅浪する浪人生も珍しくはなく、予備校に通うことは決してマストではない。とはいえ、精神的にしんどいなかで1年間を戦い抜くためには自分だけでモチベーションやペースを維持するのは難しい。自制心に余程の自信があるなら別だが、ペースメーカーとして自分を計画的にコントロールしてくれる予備校の存在はバカにできない。

② 地方の浪人生

地方の浪人生にとって難しい選択となるのは、地元の予備校に行くか、都会に出て大手予備校に行くかである。カリスマ講師等による高度で面白い授業を受けたければ大手予備校となるが、大きなデメリットもある。それは高額な寮費(高いところだと年間200万円以上)と、自制の難しさである。特に田舎出身の若者にとって都会は楽しすぎる上に、料理・洗濯・掃除等にも気を遣わねばならず、勉強には不向きな環境となる。そうなると、ペースメーカーや自制の手段として使う予備校のメリットが薄れる危険性がある。

出来れば浪人生活は親元で暮らす方が望ましい。都会の大手予備校に通い、大成した者もいたが、現役時より大きく成績を落としてしまい悲痛な結末を迎えた者も見てきた。新しい戦いの幕開けまでは時間がないのは確かだが、人により向き不向きがあるので、ここはよく考えて決めた方がいい。

大学では

浪人生活を終え、大学入学後の人生における影響であるが、大学生活には特に影響はない。1年浪人したからといって、成人直前の年齢にもなると見た目には全然分からず、変に恥ずかしい思いをすることもない。難関大学である程、浪人して入学する者も珍しくない。

また、同い年の学生が「先輩」となる。大学生となり、はじめて生まれた年の「学年」という概念から、良くも悪くも解き放たれたと感じる瞬間である。大学時代は気にする必要はないかもしれないが、社会人になると、たとえ「後輩」であっても相手が年上の場合は敬語を使った方がいいケースがある。浪人での入学だと、そういう「年上・タメの後輩」の気持ちがいち早く分かるようになる。

就職では

また、就職では1浪は基本的に不問であり、現役と基本的に対等に扱ってくれる。これが、浪人という制度が「敗者復活戦」として認められている証である。

だが、2浪だと少々怪しくなってくる。大手だと、2浪で不利にならないケースは最低でもS級大学までではないだろうか。。

それ以上の所謂「多浪」になると、許されるのは医学部医学科のみとなる。この世界はむしろ浪人前提と言ってもいい。

最後に

繰り返しになるが、浪人は辛い。しかし、大きなチャンスを得ていることも確かである。もう一度挑戦が出来ることに感謝しながらひたすら心血を注げば、授かったブーストを活かして大いに躍進出来る。

そうして勝ち取った喜びは生涯忘れ得ぬものとなり、惨めに思えていた時期も、誇れる日々として人生に刻まれることだろう。

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