指定国立大学法人

大学群

構成大学

・東京大学
・京都大学
・東北大学
・東京工業大学
・名古屋大学
・大阪大学
・一橋大学
・東京医科歯科大学
・筑波大学
・九州大学

レベル帯

S級上位B級準A

概要

世界最高水準の教育研究活動の展開が期待される大学で選抜された、文部科学省公認の大学群である。

その根拠は国立大学法にあり、同法が2016年に改正され、文部科学大臣は、当該国立大学法人に係る教育研究上の実績、管理運営体制及び財政基盤を総合的に勘案して、その申請により、「指定国立大学法人」として指定することができる旨などが、同法第34条に定められた。

現に、世界大学ランキングにおいて国内トップクラスの大学ばかりである。学歴的にも国内最高峰であるS級大学A級大学を中心として指定されており、冒頭の「構成大学」の順に指定されてきた。

・世界大学ランキングと日本の学歴ランキング
https://gakurekirank.com/sekaitonihon/

メリット:「指定国立大学法人」になると何が良くなるの?

① 研究成果の活用促進のための出資対象範囲の拡大

国立大学法人は、技術移転機関(TLO:特許権等を企業に使用させた対価を受け取り、大学に還元することなどを事業内容とする機関)、大学発ベンチャーを支援するベンチャーキャピタル等、コンサルティング・教育・講習に関する大学発ベンチャーへの出資が可能である。

さらに「指定国立大学法人」については特例として、研究成果を活用する特定の事業者に対しての直接出資も可能とされている(同34条の5第1項)。例えば災害時に作業する移動ロボットの開発・販売を行う大学発ベンチャーへの直接出資が出来るのだ。

この直接出資が「指定国立大学法人」に限定されている背景としては、いくら大学発とはいえベンチャーとはリスクが大きい投資先(ワシも個人的に投資に失敗したことがある)。そんな状況下、国が「指定国立大学法人」を指定する際、その大学が株主として出資先であるベンチャーを適切にモニタリング出来る体制が整備されているかについて審査出来るから、また、「指定国立大学法人」は体力があるから万が一コケても大丈夫だから出資リスクが少ないという理屈である(指定時の審査だけで本当にいいのだろうか・・・)。

② 役職員の報酬・給与等の基準の設定における国際的に卓越した人材確保の必要性の考慮

「指定国立大学法人」における具体的な取り組み内容としては、人事制度・給与体系に競争的要素を導入、特定年俸制を活用した高額給与の提示、特命教授制度やクロス・アポイントメント制度(簡単に言うと複数の研究機関の掛け持ち)などを柔軟に設定している。

これらの取組により、国内外からの国際競争力を持つ優秀な人材の獲得・招聘を推進するのだ

③ 余裕金の運用を認定特例

各国立大学法人が資金運用を行おうとする場合、金融商品の種別に応じ、取り扱いが可能となる認定基準・要件等が定められている。運用を安全かつ効率的に行うに必要な業務の実施の方法を定めているものであること、運用に足りる知識及び経験を有するものであること、という認定を受ける必要がある(実際はまだまだ細かい基準がいくつもある)。

対象となるのは、金融商品取引法に規定する有価証券(株式はダメ)、預金又は貯金金銭信託が挙げられるが、「指定国立大学法人」になればこれらの認定を受けずとも資産運用が出来るのだ(認定を受けて、「指定国立大学法人」と同等の自由度で資産運用が出来るようになった大学はある)。

「微妙」だとは言われるが・・・

主なメリットはこんなところ。見た感じ、指定されれば単純に「おめでとうございます、カネ配ります、予算優遇します」なんていう甘っちょろい制度ではなく、かといって名誉だけでもなく、海外の大学を見習って自力で稼ぎ、優秀な研究者を迎えて育てて、研究リソースを蓄えて研究力を高めていく仕組みを構築するための規制緩和を促していくための制度に見える。

要件:どうすれば「指定国立大学法人」になれるのか

申請要件

1.研究力、2.社会との連携、3.国際協働の3つの領域において,それぞれ1つ以上の要件で、国内10位以内に位置した国立大学法人であること。

1.研究力
①科学研究費助成事業の新規採択件数
②Q値(論文に占めるトップ10%補正論文数の割合)

2.社会との連携
③受託・共同研究収益の割合
④寄附金収益の割合
⑤特許権実施等収入の割合

3.国際協働
⑥国際共著論文比率
⑦留学生及び日本人派遣学生の割合(学部・大学院)

つまり、①②のうち1つ、③④⑤のうち1つ、⑥⑦のうち1つをクリアすれば申請が可能となる。

1.研究力

2つの指標

「世界最高水準の教育研究活動の展開」が求められるくらいなので、研究力は欠かせない要素だ。研究力をはかる指標としてよく用いられるのは2つ

1つは科学研究費(科研費)と呼ばれる我が国において最も金額の大きい競争的資金をどれだけ獲得したか。
もう1つは大学から出された論文がどれだけ後進の研究において引用されたかである。

ところが、研究力の評価とはなかなか一筋縄ではいかないものである。

「量」と「質」と「厚み」

研究力は教員数や研究予算といったリソースに応じて伸びていくものであり、「量」という点からは単純に教員や予算が多い、規模の大きな大学が有利になる。流石にそれだけでは研究力は正確にはかれないので「質」にも注目する必要がある。

だが、論文数などの研究実績をそのまま教員数で割ろうとしても、まずどの立場の研究者までを対象とするかという問題にぶち当たる。どの職位までを対象とすべきか(特に私立大学だと職位の定義が大学によって異なる)?有期の教員は含むべきか?他の大学と掛け持ちしている教員の扱いは?しかも学生だって論文を出すことも全然ある。

QSの世界大学ランキングでの研究力スコアでは教員一人あたりの論文被引用数が採用されているが、どうも教員数の算定基準はクリアに定まっていないようで各大学バラバラであり、中にはとんでもないスコアになってしまっている大学も見られる。

人数で割るか、論文数で割るか

THEのランキングように平均引用回数の方が精度は高そうだが、教員数の割にはさして論文自体が出ていない大学もある。大学の先生も忙しいらしく、研究より教育側に傾倒している方もいらっしゃったりと事情は様々ではあろうが、研究と教育に対するリソースの掛け方で前提条件が変わってきそうだ。

科学研究費も「質」の評価は難しいところがあり、採択率が高く見えてもそもそも申請自体が少ない場合がある。科研費の申請も時間をとられるらしく無理もないが・・・。元より厳選された案件を申請する大学と、忙しくとも積極的に申請していこうという大学では、そりゃ同じ研究力だったとしても打率は変わってくるだろう。

また、論文が引用される回数というのは少数の優秀な教員によって稼いでいることもあり、大学としての研究力が全体的に評価出来ているとも限らない。そして「質」ばかりを追求すると、特定の研究領域に一点集中する単科大学が有利となってしまう(特に医学に強い大学)。

ナントカindex

そこで「量」と「質」の両面に着目した「厚み」という観点も登場したが、そこでの代表的指標が、一つの論文における引用回数の多い少ないを勘案できないものであったり、研究期間がまだ短く実績の積み重ねに限界のある若手研究者に不利になったりと問題点が指摘されている。

その後、様々な亜種となる指標が登場しているものの、結局「これだ!」と言えるような完全体は出てきていない。指定国立大学法人の審査でも「厚み」を表す指標は使われなかった。

論文被引用と科研費自体の課題

世界大学ランキングでも利用されている高被引用論文の指標については、そもそも数としては決して多くはないものの「この研究論文に書かれていることは間違っている」として引用されることだってあるのだ(それはそれで後進の研究に貢献したという考え方もあるが)。

科学研究費にも通じることだが、研究領域としては文系よりも理系の方が遥かに広いうえ、文系は論文よりも著書として世の中に研究成果を出すことも多いので、理系主体の大学が有利になるという偏りも生じてしまう。さらには科学研究費はコンペの要素があるため研究力の指標の一つとしてよく用いられるが、その結果得られるのはあくまで研究のための資金であり、厳密には研究成果そのものではない。

ツッコミだしたら本当にキリがないような世界であり、大学の研究力評価というのは、学生の学力評価、就職力評価とは比べ物にならないほど難易度が高い。色んな指標を複合的に使うしかなく、それで「だいたいどの大学が研究に強いか」はなんとなく見えてきたつもりになるのだが、分野によってそれぞれ全然事情が違い、大学によって各分野にかけるリソース配分の比率も異なるため、そう簡単には運ばない。世の中には、大学の研究力を評価するための研究まで存在するくらいであり、トーシロが安易に踏み込んでいい領域ではない。

科学研究費助成事業の新規採択件数

科学研究費助成事業における分野単位で2分野以上、一定期間における新規採択件数の累計が国内10位以内に入る必要がある。

分野単位というのは、情報学・環境学・複合領域・総合人文社会・人文学・社会科学・総合理工・数物系科学・化学・工学・総合生物・生物学・農学・医歯薬学の14 分野であり、理系の方が圧倒的に多いことが分かる。ここから2分野で国内10位入りしなければならない。

新規採択「件数」とあるように、ここでは「量」がモノをいうので大学規模が大きい旧帝国大学が有利となる。

Q値

論文に占めるトップ10%補正論文数の割合が一定期間において国内10位以内が要件。

論文に占めるトップ10%補正論文数の割合とは「Q値」と呼ばれる。高被引用論文とはトップ1%論文のことを指すことも多いが、ここでは対象がもう少し拡大されている。

こっちでは「割合」ということで、「質」が重視されているようだ。一橋大学や東京医科歯科大学はこちらの方でクリアしたのではないだろうか。

 2.社会との連携

・受託・共同研究収益の割合
・寄附金収益の割合
・特許権実施等収入の割合

経常収益に対する上記いずれかの収益の割合で、国内10位以内に入ることが要件となる。

国立大学全体では附属病院収益・運営費交付金収益で、経常収益全体の2/3以上が占められる。実は、学生納付金収益は10%にも満たない。

附属病院収益 36.1%
運営費交付金収益 30.9%
学生納付金収益 9.8%
受託研究等収益等 9.4%
寄附金収益 2.0%
補助金等収益 5.4%
施設費収益 0.5%
その他 5.9%

※ 国立大学法人の経常収益の構成 「国立大学法人等の令和3事業年度決算について」より

今回の審査対象となるのは、それ以外の「外部資金」と呼ばれる部分に該当し、収益構造上はまだまだマイナーではあるものの年々比率を増してきており平成19年度は11%であったところ、令和3年では18%まで上昇している。

3.国際協働

国際共著論文比率

一定期間の平均値が国内10位以内であることが求められる。

ただこの指標は、先述のような研究力指標とは相関がみられるわけではなく、国内上位の大学を見てみるとC級大学D級大学の面々が並ぶ。「指定国立大学法人」の審査において、おそらくは何らかの補正がかかっているのだろう。

自力だけでの研究が厳しいからこそ海外の研究機関に頼らざるを得ず、同指標の数値が上がっているだけの場合も少なくない(と、とあるS級大学発の論文に書いてあった)

留学生及び日本人派遣学生の割合(学部・大学院)

学部または大学院における全学生に占める留学生及び日本人派遣学生の割合の平均値が国内10位以内に入ることが必要とされる。

この指標も当然ながら外国語大学や国際系が強い大学の比率が高くなる。ナントカ国際大学のような名称が多くみられる私立大学や、公立大学の方がはるかに留学生及び日本人派遣学生の割合が高い傾向にあるのだが、国立大学に絞るとS級大学・A級大学が高くなるのだろうか(大学院だと特にそうかも)。

これで終わりではない

いずれも「国内10位以内」とはなかなか高いハードルだが、忘れてはならないのは、今までのはあくまで申請要件に過ぎないということだ。

既に国内最高水準だなんて当たり前であることを踏まえたうえで、現在の人的・物的リソースの分析と、今後想定される経済的・社会的環境の変化を踏まえ、大学の将来構想とその構想を実現するための道筋及び必要な期間を明確化することが求められる。その中には現時点では認められていない規制緩和が行われた場合に追加的に行うことが想定される取組も含まれ、学内での入念な検討・調整が必要なことだろう。東北大学のように学部ごとに個性の強い大学もあり、まとまった取組を大学全体を挙げて推進するのは大きな大学であるほど大変になる。

それらをまとめた文書を提出しプレゼンを経て、審査が通れば、やっと指定を受けられるという訳である。

≒ 旧帝?

あれ何か違う??

様々な指標において国内10位をクリアするレベルともなれば、やはり「旧帝国大学」クラスの大学が思い浮かぶ。

ところがよく見ると、「旧帝国大学」がすべて含まれている訳ではない。農学では東大にすらも肩を並べると言われる、あの北海道大学の名前がないことに気付く。

何が足りないというのだ

同学は3つの要件のうちの1つである「社会との連携」で基準を満たしておらず、長らく申請が出来なかったとのことだが、最近ではようやく要件を満たしたとの報も耳に入ってきた。

九州大学が指定された時点で「指定は一旦ここまでにすっかな~♪」という方針も国から出されているので今後の動向は定かではないが、東京工業大学と東京医科歯科大学の合併により、10あった枠が一つ空くと認識される可能性もあるので、近い将来に望みはあるのかもしれない。

進む序列化と格差の拡大

大学の国際競争力を高めるという点では他にも色々と制度が設けられていたりもするが、最近注目を集めているのは大学ファンドによる数百億円の助成が最長25年続くという国際卓越研究大学制度である。こちらは対象が国立大学法人に限られないが、東京大学、京都大学、東北大学の3大学が認定候補に残っている。

実は、「指定国立大学法人」に最初に選ばれたのもその3大学であり、大学としての歴史も長く、研究規模も非常に巨大なものがある。

受験、就職において

出来たばかりだしねぇ

「指定国立大学法人」はあくまで国・大学側(研究・教育をする側)目線での大学群なので、学生・企業側としてはトップクラスの国立大学といえば、やはり旧帝の方がしっくりくるというのが現状だろう。しかも入試難易度や就職力においては「旧帝国大学」「指定国立大学法人」の中でも大きな差がついており、S級大学とA級大学の間には同じ難関大学とはいえがあるのも事実だ。

進学実績において
「指定国立大学法人○名合格!!」
なんて言われても世間では「???」にしか思われないはずだ(笑)。ずっと日本全国で進学校の力を示す指標となっているのは「東京一工」・・・いやいや、何と言っても「東大・京大」の合格者数である。

当面はないだろうが・・・

受験産業・就職活動における学歴とは、いずれも国により定められた枠組みとはまた別の世界軸となっており、国立では「東京一工」「旧帝国大学(旧、国により定められた大学群だけど)」「難関国立10大学」、私立では「早慶」「(G)MARCH」「関関同立」の方がはるかにインパクトが強い。「指定国立大学法人」の中にはあまり実学・就職志向でないところもあり、受験・就活における先頭集団としての一流大学と重複する部分は多いもののピタリ100%一致している訳でもない。

とはいえ、国立大学の中でも今後格差が拡がり生き残りがかかってくる中で、今後は受験・学歴面でも定着し「一流大学 = 指定国立大学法人」という未来が訪れる可能性もゼロとは言えない。「旧帝国大学」を網羅して各エリアの難関大学をカバー出来るようになるため、北海道大学が今後指定されるかどうか、それ次第なところがあるかもしれない。

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